小ネタ集 おもてなしの心 その3

私がこれまでバーで見たり、聞いたり、感じたりしたバーテンダーのお客への気配りやちょっとした気遣いを綴る「おもてなしの心」と題したこのコラムも今回で3回目になります。

今回のエピソードも実際に私がバーに通う中で体験した事を書いていきます。


エピソード1 ピン札

ある居酒屋でのこと。
その居酒屋のママさんがあるバーに行ったと言う。私も良く行くそのバーは勿論、バー紀行にも掲載された店である。
その中である話をしてくれた。
「あの店はおつりのお札を全部新札で返しているんじゃないのかなぁ」
私も何度となくそのバーに行った事はあったが、おつりの事まで考えた事はなかった。
それを確かめるべく、そのバーへと行ってみることにした。

いつものバーでいつものように飲み、そしていよいよお会計。
お札が貰えないと真相が判らないので丁度5千円が返ってくるように支払いをしてみる。
ピン札確かに新札が返ってきた。私は事の真相を聞いてみる事にした。
「確かに新券を用意していますが皆さん、普通にやられていると思いますよ」
確かに銀行に行って新券を用意すると言うのは難しい事ではないが、態々用意するのも手間の掛かること。
バーテンダーのやる事は人に気付かれない小さな事が多いが、それがカッコ良かったりする。

だた、バーテンダーも歳を重ねると指先の脂が少なくなって新券だと数え間違う場合もあるようで、敢えてやらないバーも多いみたいです。


エピソード2 コースター

コースターあるバーのバックバーに真鍮製と思われるプレートのような物を発見したのはもう何時の事であろうか。
バーには色々な調度品が置かれている場合があるが、そのプレートは金色の真鍮製と言う事もあってか特に私の目を惹いた。
そのプレートに描かれている(実際には彫刻されている)デザインは何だか某秘密結社の紋章にも似ていて神秘的な光を放っていた。

話は変わって先日の事。
そのバーのマスターがそのプレートを洗っているのを目にした。
実はこのバーでは通常はチーフバーテンダーがお店を切り盛りしているのだが日曜日だけマスターがカウンターの中に立つと言う話を受けての来店だった。
いつもピカピカと光り輝くのはちゃんと洗っているからんだぁと思いながらその作業を見ていた。

更に話は反れて別のバーでの事。
このバーは年内で閉店し、沼津で新たな店を開くと言うことで店に赴いた。
店内もスッカリ片付いて若干殺風景な感じになっている。
ふと、カウンターに目をやると前述のプレートと同じ物が置いてあった。
何で同じ物がこのバーにもあるのだろうか。
そのプレートについてバーテンダーに聞いてみる事にした。
「これはある人専用のコースターなんですよ」
そのコースターの持ち主はあるお医者さんのお客さんなのだそうだ。
多趣味な方でしかも、その趣味の技術が全てレベルが高い。
趣味も行き着くとこまで行くと実益を兼ねる場合があるが、正にそんな人なのだそうだ。
お酒も非常にスマートに飲む方で、自分専用のコースターを行き着けのバーに置いてあるのだそうだ。
なかなか粋な方である。
「ただ、その方は数年前にお亡くなりになってます。」
このバーで私はネクタイのかかった酒瓶を見た事があるのだが、そのネクタイもその方から頂戴したものなのだそうだ。
「あの方には良く可愛がってもらいました。だから捨てられないんですよ。」

その話を聞いた時、私はピカピカに洗いあげられたコースターの事を思い出していた。
勿論、前述のバーのマスターだってその方が亡くなっている事は知っているだろう。
もう多分、使われる事はないであろうそのコースターは、バーテンダーによってピカピカに洗いあげられ今でも主の来店を待っている。

公開日:2013/01/13

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