| 42歳の初体験 最終章 富士山リベンジ 下山編 |
公開日:2009/11/15
5:45pm
剣が峰を後にした私とH君。お鉢を富士宮口方面に向かった。
5:56pm

「あれ?意外と近いじゃん」
前回、富士宮の山頂に着いた時には確認しなかったが、富士宮口山頂と剣が峰がこんなに近いなんて思いもしなかった。距離にして300mくらいであろうか。あの時、他の皆を置いて一人、剣が峰まで行ってたとしたら、リベンジなんて考えなかったかもしれない。まぁ、シーズンオフの、しかも夕暮れ間近の他に人が居ない剣が峰で色々とさせてもらったのだ。後悔はなかった。
富士宮下山道には「通行止」の案内がかかっていた。既に登山道が終了しているようだ。
「御殿場口は大丈夫なの?」
H君に聞いてみた。多分、大丈夫であろうと言う回答だったが、行ってみるまでは判らない。
6:03pm
5分後。
御殿場口の下山道が見えた。やはり「通行止」の案内があったが、完全封鎖と言うよりは半開きになっており、下るのは大丈夫のようである。
覚悟はしていたが暗闇の中を下るのは初めてである。ヘッドライトを準備し、3個のLEDを全開にして下り始めた。
前回は闇の中を登った訳であるが、登りと下りでは気の遣いかたが違う。下りは足を踏み外すと滑落する可能性があるので非常に怖いのである。特に山頂付近は傾斜のある岩場が多い。階段状の岩場を心許ないライトで照らしながら一歩、また一歩と下っていく。通常の下山に比べて格段に時間がかかるのである。
30分程下ったであろうか。少しだけ休憩することにした。既に日は落ちきって星空が見えている。下界の光は厚い雲海に遮られ、人工的な光は頭のヘッドライトくらいなものである。
斜面に寝ころび、ヘッドライトを消す。すると、頭上にはこれまでに見たことのない幾万もの星が輝いていた。
「うぁっ!天の川がこんなにも綺麗に見えるのか!」
こう見えても高校生の時は天文関係の部活に所属していた私。わし座のアルタイルとこと座のベガの間を帯状の無数の星が川のように流れている。新月なのか月の光もなく、本当に星の光しかない世界である。
この幻想的な夜空を何とかデジカメに納めようと考え、夜景モードなどの撮影モードで撮影を試みたがダメだった。長時間露光が出来るデジカメなら良かったのだが…
御殿場口登山道は富士山屈指のロングコースである事は何処かの章で話をした覚えがあるが、それ以外に御殿場口登山道の特徴としては山小屋の少なさである。この場合の山小屋の少なさとは営業している山小屋の少なさを指している。途中には朽ち果てた山小屋なども見る事が出来る。何かで読んだのだが御殿場口登山道はコースの中でも歴史が古い。なので当時は重宝されたのだが、スタート地点がもっと高い富士宮などのコースが後から出来た事、さらにロングコースと言う事で敬遠されたの利用客が減少。廃れていったのであると。
なので、山小屋も古いが案内板などの標識も古い物しか残っていない。一部は何て書いてあるのか判読不能になっている物まであり、非常に心細い気持ちにさせる。そんな状況の真っ暗闇を進んでいるのである。
今回、このH君はPSPとGPSキットを持ってきている。これを利用すると高度が判る。
「今の標高はどのくらい?」
聞くんじゃなかったと言う値が表示された。心が折れそうである。
7:30pm

山小屋毎に休憩し、水分補給と行動食を頼りに下山を繰り返す。
時間は既に7時をまわり、登山計画書の予定だとそろそろ自宅に到着する頃である。心配すると困るので一度、自宅に電話することにした。あまり電波が強い訳ではないが何とか通じる。電話が終わるとまた携帯の電源を切り、下山を開始した。
8:15pm
そろそろ御殿場口下山道最大の時間短縮を実現出来る、大砂走りが見えても良い頃である。
ある標識が目に入った。
「どっちだ?」
案内版にはうっすらと「宝永山方面」と書いてあるのが判った。
「宝永山巡りのための別れ道ですかね?」
H君が考えていた。正直、御殿場口は初めてのコース。何度か下山した事があるH君だけが頼りである。私達は宝永山とは逆方向へ進むことにした。
8:28pm

暫くするとある山小屋に到着。そこには「七合目」の文字が確認出来た。富士宮口の整備された標識に比べると何とも古めかしい案内である。
8:57pm
30分後。
七合目を過ぎているのだからそろそろ大砂走りが現れないとおかしい。六合目の次は五合目の駐車場になる訳で全てが終了する。
下山して行くと完全に崩壊して瓦礫と化した山小屋の後を見つけた。その光景をデジカメに納めていると遠くでH君の声が聞こえた。
「ちょっとこっちへ!」
そこには「六合目」と書かれた古い柱があった。六合目と言ったら大砂走りはとっくに越えているじゃないか!
私は「猿の惑星」のラストシーンを思い出していた。
宇宙から帰還する際、機械の故障である星に不時着する。その星でクルー達が見たものは、人間を狩る猿人達が支配する光景だった。幾多の出来事を乗り越た彼らを最後に待っていたものは、海岸で朽ち果てた自由の女神像だった。間違って降り立ったその星は紛れもない地球だったのだ。
このまま下山道を下りると非常に時間がかかってしまう。しかし、七合目まで一度上がってから大砂走りを下るには体力的に消耗仕切ってしまう…何処かに道案内の地図はないのか?…そうだ!
私は昨日の出来事を思い出していた。御殿場口の駐車場で撮影した登山道のイラスト。富士宮ルートの御来光山荘を撮影したものであるが、富士宮ルートと御殿場ルートは隣同士のルートだ。もしかしたら御殿場ルートが運良く撮影されているかも知れないと考えたのである。
携帯の電源を入れ、データフォルダを探す。頼む!何か写っていてくれ!
あった!しかも六合目から大砂走りに迂回するルートがあるぞ!その場を出発して案内板があるかを注意深く確認しながら進む。あった!細いけどこれが迂回路に違いない。何気に撮影したイラスト地図がこんな形で役に立つとは思わなかった。
9:12pm
数分後。砂の多い道にぶち当たる。これが御殿場ルート最大の特徴である大砂走りである。前回の須走ルートの砂走りよりも幅が広く、距離が長い。夜でちょっと怖かったが慣れてしまえばなんてことない。軽快に、しかし、警戒なかがら大砂走りを下りる。ここで時間を短縮しないと何時に下山出来るか判らない。既に時間は9時をまわっている。
大砂走りに入った私達にもう脇道は存在しない。このまま一気に下ればそこは御殿場口駐車場…などとうまい話はない。とにかく夜なので後どのくらい下れば良いのか判らない。まわりは相変わらず真っ暗な闇の世界だ。
小さな灯りの点が2つ、見えてきた。オレンジ色に輝くそれは人工的な色味を放っていた。
「あれが駐車場の光だろうか?」
御殿場ルートの下山が初めてではないH君も、こんな夜中に下ってきたのは初めてだろう。そのオレンジ色の点が駐車場の物か、知る由もない。しかし昨夜。駐車場に行ったときの画像を確認するとオレンジ色の光に照らされた私の車が写っていた。間違いない。あれが駐車場の光であろう。
しかし、下れど下れどその点は近くはならない。挙げ句の果て、オレンジ色とは違う光まで見えてきた。ヘッドライトのようだ。段々近づくヘッドライト。この時間に御殿場口から登ろうとする人なのか?
「こんばんは~」
自然と声を交わす。3人組のパーティーだった。遠くに見えるオレンジ色の光の正体を聞いてみた。予想通り、駐車場の光だと言う。ただ、衝撃的な事実はその後で、この人達。駐車場からここまで2時間半もかかっていると言う事実である。登りである事を鑑みても、下るのに後1時間程度はかかるのではないかと言うのが嫌でも判ってしまうのである。
10:56pm


それから約2時間後。
いよいよゴール間近なのが回りの様子から判った。よく見ると人工的な建物があった。自販機があるので御殿場口の売店か何かであろう。テーブルと椅子があったので休憩し、先ほど飲みきってしまった水を購入し一服つけた。
ここまで下りれば電波もハッキリしているであろうと携帯の電源を入れると、留守番電話サービスセンターがメッセージを預かっている時に表示されるアイコンに気が付いた。相手はRちゃんだった。私達2人が無事下山出来たか、心配してくれていたようだ。電話をかけると安堵の声が聞こえた。Rちゃん達も無事下山出来たようでなによりだった。
11:14pm
「じゃあ、行こうか!」
売店を後にして駐車場に向けて歩き出す。
11:23pm

時間にして10分程度であろうか。大きな白い鳥居を潜ると見慣れた車がみえた。
「お疲れ様でしたー!」
朝の6時半にスタートした今回の富士山リベンジ登山。現在時刻は夜11時半だ。剣が峰まで10時間。山頂滞在が1時間。下山に6時間。トータル17時間もかかった訳だ。
という訳で今回の「42歳の初体験」は終わりです。長い間、読んでいただきありがとうございます。
今回の他事笑論を読んで、自分も富士山に挑戦してみようと考えた人も多いかと思いますが富士山は今の時期は危険ですので来年を待つしかありません。来年の富士山登山のための体力作りの目的でも、箱根などの低い山から始めてみるのがオススメです。
一度は富士山、登ってみてはいかがですか?
(おしまい)
