42歳の初体験 第7章 リベンジ

公開日:2009/09/23

富士山登山の翌日。私は夏休みを取っていた。富士山登山でどの程度、身体がダメージを受けるのか?想像が出来なかったので、身体を休めるつもりで取った休日だった。
その日の夜。ワンショットバーのマスターに借りていたザックを返しに出かけた。折角来たので軽く飲みながら話をしていると…
「実は相談があるんですが…」
話を聞いてみるとマスターの知り合いで、私自身も知っているRちゃんが富士山に登りたいと言っていると言う。と言っても昨日、富士山から帰ってきたばかりだ。来年の話かと思っていたが今シーズン、行く気満々なのだそうだ。今回の富士登山は半分はAさんのお陰で出来たとも思っていた。それは現地に近い御殿場在住と言う地の利を生かしての送迎の手配に他ならない。また、私自身も昨日、初富士山を終えたばかりの初心者だ。その初心者がこれまた初心者を連れて富士山に入山することへの戸惑いも感じていた。
「判りました。じゃあ、こうしましょう。」
マスターはご苦労さん会と称した飲み会をセッティングすると言う。その場にAさんを誘い、飲みながら再度、富士山に登らないかと伺うと言うものだった。

それから二週間後。
Aさんを誘っての飲み会が行われた。マスターがセッティングした場所は焼肉屋。焼肉を食べ、酒を飲みながら今回の富士山登山を振り返った。とは言っても、その場にいた私とAさん以外の面子はご苦労さんでも何でもないのだが…。ちなみに今回の言い出しっぺであるRちゃんはこの場にはいない。何でも金がないのでドタキャンしたと言うマスターの話だった。と言うかある意味、主賓なんだけどなぁ。

「Aちゃん、もう一度、富士山、行かない?」

マスターが切り出した。

「絶対イヤ!」

登っている時には気付かなかったがAさんがこれほどまでに体力的にキツかったとは思いもよらなかった。
「でも、Hが行きたいって言ってたよ。剣が峰((けんがみね))にも行けなかったしね。」
その思いは私も一緒だった。富士山登頂には成功したものの、本当に日本で一番高い場所には到達出来ていなかった。剣が峰。富士山の真の最高峰。そこに対する憧れもあった。
そうだ。私はここまでに色々と宿題を残してきてしまっている。箱根は途中の山中城跡で帰ってきてしまった。富士山では山頂でカップラーメンを食べたいと考えていたが、混雑を理由に断念した。そして、剣が峰にも行けてない。全てを中途半端に終わらせて来てしまったのだった。

後日。Aさんの話を受けて、Aさんの義弟であるH君にメールを出した。Aさんの話の通り、H君も今回の登山を快諾してくれた。
その後。Rちゃんにもメールを出した。日程などの調整をした結果、シルバーウィーク中の21日に登山する事が決定した。日程が決定したのであとは当日のスケジュールを考えなければならない。
Rちゃんは初心者であるため当初、宿泊を含めた一泊二日のプランを提案した。しかし、金がかかると言うことから宿泊自体は拒否されてしまった。次に御来光や登山時間を考慮し、夕方から夜にかけて登山。山頂で朝を迎え、午前中に下山するスケジュールを提案する。しかし、夏が短く、秋の気配が例年より早いペースで訪れている事が感じられる昨今の気象状況を考えたのか、はたまた不安になったのか。夜間登山も拒否された。そういう彼の希望に沿っていくとスケジュールはかなりキツいものになってくる。秋分の日が近いこの時期。太陽の出ている時間は丁度12時間。下山3時間。お鉢巡りを含む山頂滞在2時間と考えた時。登山に使える時間は僅か7時間だ。
もう一つ。私には気がかりな部分があった。それはRちゃんの体型である。失礼は承知の上だが彼は昔の私を彷彿とさせる恰幅((かっぷく))のいい体型だ。正直、私も昔の体型なら富士山に登ろうなんて絶対に考えなかった。それでなくても無駄な重量を背負って登る訳で、普通の人の3倍以上苦しいのが判るからだ。そうなると登山時間は最低でも10時間は必要になるのではないかと考えていたのだ。
私はRちゃんにどの程度大変な事を始めようとしているのか。少しでも判ってもらうために一緒に箱根を事前登山する事を進言した。何故、箱根なのかと言えば、箱根には三島駅~芦ノ湖間にバスが走っている。途中でリタイアしたとしても、バスを使って下山する事が可能だ。しかも、心臓発作などの重大なアクシデントが発生したとしても、無料で救急車を呼ぶことも可能になる。富士山に比べ、安全マージンの幅が格段に広いのだ。
しかし、それすらも断られてしまった。一度、富士山に入山して重大なアクシデントに見舞われた場合。例えば足を捻挫するなど多少動ける程度ならブルドーザーの要請。高山病による意識障害や心臓疾患など動けないほど重篤((じゅうとく))な状況では救難ヘリを要請するしか下山方法がなくなる。ちなみに救難ヘリを要請した場合。一説では費用が200万円とも言われている。富士山に入山すると言うことはそれほど危険なものなのである。
更に出発4日前。Rちゃんが自分の彼女を一緒に連れて行きたいと申し出て来た。勿論、行くのは構わないのだが装備だけはシッカリと揃えて来て欲しいと強くお願いした。装備不足になっても誰も余分な装備などは持っていない。入山した以上。自らを守れるのは自分しかいないのである。
そんなこんなで今回のリベンジ企画は不安一杯の中。始まったのである。

つづく

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