突撃!アポイント商法体験! その3

公開日:2004/09/01

担当Sは分厚いクリアファイルを取り出した。そこには会社の概要が書かれていた。本社は新宿のビル。マクド本社と同じビルだそうだ。そして会社の主な活動としてドラマへのタイアップ。その中には有名な「ロンバケ」「ラブジェネ」なども入っている。
「タイアップってやっぱ会社に対する信頼がないとナカナカ取れないらしいんです。そう言う意味でも私の会社が如何((いかが))わしい会社で無いことを判って貰えると思うんです。」
切り口はそう言う部分から始まった。先ずは俺を信用させる作業から入るようだ。
「この前電話でも話したようにレースにも参戦しているんですよ。」
そしてレースクィーンの写真を見せてくれた。私の意に反したイケイケネーちゃん揃いだ。
「ふーん、デカい会社なんだねぇ。じゃあ、給料も良いでしょ。」
「私は新人だからまだまだですけど。」
饒舌((じょうぜつ))に更に拍車が掛かった。
そしていよいよ商品説明なのだが、その前に妙な話を始めた。
「○○さんは人の生涯賃金って幾ら位か判りますか?」
「1億2千万くらいじゃないの?」
「いい所ですねぇ。一説には1億1千○■▲万円と言われています。」
「そうだよね。で?」
「その内、衣食住を除いたお金がいくら掛かっているか判ります?」
「4、5千万くらいじゃないの?」
「すごーい!一説には4500万と言われているんです。その中身はテレビだったり冷蔵庫だったり。所謂「耐久消耗品」が多いんです。耐久消耗品は平均で10年程度で買い換える訳です。そう言ったお金を抑えられれば浮いてくるお金が出来る。つまり「ゆとり」が出来ると思うんです。」
「なるほどね。で?」
「そう言う耐久消耗品や、まぁそれ以外にも色々とあるのですが、そう言う物を安くご提供するお手伝いをするのが私達の仕事なんです。そして安くなった分は「買ったつもり貯金」として蓄えてくださいね。」
N社が扱う所謂「安くなる物」とはざっと説明すると
「結婚式の衣装・引き出物」
「ハネムーンや個人旅行」
「寝具・家具・生活雑貨一般」
「電化製品一般・携帯電話など」

安くなる理由はメーカーから直販する事で中間卸の費用をカットすると言うことだ。これでは某通販会社のジャ○ネットやトー○堂と大して変わらない。
しかし圧倒的に違うのは価格。30~70%オフで手に入るのだ。これなら逆に良い話ではないか。そんな筈はない。これだけの話だったらとっくに契約成立である。こちらにデメリットが全く感じられない。
そしてまだ特許商品についての説明がなかった。
「で、特許商品の説明は?」
「その前にダイヤモンドについて少しお話させてください。」
ダイヤモンド。男には全く興味の無い、全く価値の見出せない代物。しかし少なからず特許商品の説明の前にダイヤモンドの話をすると言うことは、少なからず関係はあるのだろう。そして、この話がこの説明会の本当の山場なのではないかと直感したのだった。
「ダイヤモンドには4つのCがあるのを知っていますか?」
私も伊達にテレビショッピングを見るのを趣味にしている訳ではない。トー○堂の○さんは私のダイヤの師匠だ。しかし、ここは知らない振りをした。
「キャラット、カラー、クラリティ、カットの4つなんです。0.3カラット以下は所謂くずダイヤです。そしてカラーは透明度を。クラリティは純度や不純物の有無。カットは輝きを決める大切なものなんです。」
カラー以外は何となく判る。クラリティに関してはVS、VSSと言った種類があること。カットの最高はエクセレント、その次がベリーグッドであること。その程度の知識はある。しかし、トー○堂の価格は判っても一般市場の相場は良く判らないのが私の一番の弱い部分だ。
そしてN社の特許商品と呼ばれる物を写真ではあるが見せてもらった。それはダイヤとプラチナを使用した最終的には結婚指輪になるイタリアンジュエリーであった。この商品はN社の自社製品で特に金額的な話は説明にはなかった。
これで長かった説明は終了した。約2時間半の説明であった。
ここまでの話を総合すると「耐久消耗品が安く買える」「特許商品はイタリアンジュエリー」の2点に集約される。とっても良い話に聞こえるが「疑心」は常に持っているように心がけた。
そして作文の時間。ここまでの話を聞いての感想を述べよと言うことだ。
この作文担当はSではなく別の女性だった。元TBSアナの進藤晶子似で私のタイプ。彼女との会話も水を得た魚のように私の舌が動くことを止めない。もうキャバクラ状態である。
しかし真面目に直販商品に対するサポートに関する問題などを指摘した。特に携帯電話などは買い替えをするのにどうするのか?と言った疑問点もかなり突っ込んで話した。勿論、「興味を持っています」と言う印象を相手に植え付けるための演技である。
作文を終えると既に時間は夜の9時に迫っていた。この場所は9時までと言うことで外へ出なければならないらしい。
「○○さん、車で来てます?」
「いや、電車と歩きなんだけど」
「場所を国1のデニーズに変えたいんですが、私をそこまで送ってもらえませんか?」
『普通はそっちで車くらい用意するもんじゃないの?』と思ったがここまで来てまだ本当の真相を暴けていないような気がした私は家へ戻り、((きびす))を返して市民文化会館へ来た。
私と担当Sを乗せた車は一路、デニーズへ向けて走り出した。

(つづく)

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