| ある帰宅時の出来事 完結編 |
公開日:2004/05/01
それから数分後、Aさんが戻ってきた。
Aさん「交番に行ったら誰も居なくて、所轄の警察に連絡したら付近に居る警官を寄越してくれるって」
少しだけ安堵の気持ちが広がった。これで終わる。そう思った。
それから数分後、一人の警官がチャリに乗ってやってきた。
私とAさんは発見時の状況とこれまでの経緯を話した。その後、警官は彼女に色々と質問をし始めた。
警官「気分悪いところ申し訳ないんだけど、名前言えるかな?」
彼女「○○○○です。」
警官「生年月日は?」
彼女「昭和○○年○月○日」
意外とスラスラと答える彼女。しゃべる口調こそゆっくりだが、意識はかなりハッキリしている様子だ。彼女の話したことを掻い摘んで言うと、精神的な病気を患っていること。そのため現在は仕事をしていないこと。何故か年金生活者であると言うこと。出身は静岡ではない他県であること。身内は居ないということ。色々と聞けた。
警官は肩口にある無線で本庁へ連絡。女性の警官を現場に派遣する旨と救急車を手配した。
その間、私は彼女の手を握り、脇に付いていてやった。
程なくして応援のパトカーがやってきたが、女性警官はいなかった。男性警官が2名。最初の警官から状況を聞き、彼女に話し掛けていた。精神障害者であることを最初の警官から聞いた後から来たその警官は、彼女の左腕の袖を捲り上げた。
そこには大小無数の傷があった。所謂「リストカッター」と言われる人なのであろう。その数は尋常な数ではない。私が「根性焼き」だと思った傷は手首から肘までも到達する大きな物で縫った後も見られた。こんなにヒドいのは初めて見た。と言うか私の周りにリストカッターはいないので…
更に数分後、不動産屋もやって来た。更に女性警官もやって来た。そしてサイレンの音と共に救急車もやって来た。彼女の周りには段々と人が増えてきて俄かに騒々しくなってきた。
その時である。
彼女「嫌ーっ!怖いよー!怖いよー!」
泣き出したかと思った次の瞬間、彼女はバタバタと暴れ出した。そして後頭部をガンガンとアスファルトへ叩きつけ始めたのだ。
私は咄嗟に握っていた彼女の手を高く持ち上げ上半身を起こすと、彼女の頭の下に腕を回しその暴れる体を抱きしめた。
私「大丈夫、大丈夫だから。何も心配することないから。」
自分でも驚くほど体が勝手に動いていた。なり振り構っている場合ではなかった。
そして女性警官に彼女を預け、彼女から少しだけ離れると、一番最初に来た警官が私に耳打ちした。
警官「救急隊員が言ってたけど、どうも常習犯らしい。この前も救急車で運ばれたらしいよ」
私は少しだけやり切れない気持ちになった。
常習犯の仕出かしたことなので事件性はないと言う事で私とAさんに対する事情聴取は特別あるわけではなかった。
そして彼女を警察に任し、私とAさんは開放された。
清水駅への帰り道。彼女の「怖いよー!」と言う言葉が頭の中でリフレインしていた。
「病気のせいであって彼女のせいではないのに…」と思うと少しだけ彼女のことが不憫になった…
どのような状況から精神障害を患ったかは判らないが、誰もがそのような状況になりたいと思ってなっている訳ではないのである。仕方なくなっている人の方が多いと思う。
自分がどんな状況でも、困っている人に手を差し伸べる少しの勇気と思いやりの気持ちだけはこれからも持ち続けたいと深く感じさせる出来事だった。
