三島市内には多くのバーが存在しているのだが、その分布にちょっとした偏りがあるのをご存知だろうか。

広小路駅を最寄り駅とする白雪通りを中心とするエリア。バー紀行にも掲載されているバー、特にオーセンティックバーはこの辺りに存在するため、その客層は地元民を中心とする常連客で賑わう。
この辺りは小さな範囲にスナックやバー、飲食店などが多く点在しており、所謂「はしご酒」をするには丁度良い位置関係にある。

話は逸れるが、三島市内は宿泊施設が少ないという話を聞いた事があるが、宿泊施設の殆どは三島駅を中心としたエリアにある。
特に観光や出張などで来られたお客はこれらビジネスホテルのお世話になる訳だが、相当のバー好きでもなければ土地勘のない場所で飲もうと考えた時、駅周辺のバーを利用することになる。
ショットバーやスタンディングバーなどは存在するのだが、オーセンティックバーを求めるとなるとナカナカ難しい。そう言う意味では三島駅前と広小路駅界隈では客層もちょっと違った毛色になり、ある意味住み分けが出来ている感じではある。

しかし、別の見方をした場合、三島駅前にオーセンティックバーがあっても良さそうなものだが、ガッツリと駅前だと店舗次第ではキャバクラと軒を並べることにもなりかねず、ナカナカの難題である。

この難題を乗り越え、駅前から一番近いオーセンティックバーが開店したのは昨年11月の事。
その屋号を「PORTIER(ﾎﾟﾙﾃｨｴ)」という。
ここのオーナーバーテンダーは全国的にも有名な「BAR YUMOTO」で修行をされた方が開いたお店である。

話は逸れるが私が彼に初めて出会ったのはかれこれ5年以上前の事。バー紀行が始まったか、始まらないか位の頃だ。
最初は慣れない様子だったが、年数が経過するに連れ、任される仕事が多くなっていったなぁとその過程を見続けていた時期もあった。
彼がYUMOTOで最後の営業となったのは2年前の年末の事。参加していた忘年会を途中で抜け出して、彼のYUMOTOでの最後の営業を見届けたのは懐かしい思い出である。

そんな彼は市内の飲食店で勤務しながら物件を探していると聞いた。
とある夜、一杯飲み屋で会ったとき、「物件が決まったのでそろそろ開店します」と話を聞いた時は心の中でちょっとした小躍りを踊ったほどだ。
経験のない若者が独り立ちをする姿を真っ新(まっさら)な状態から見てきたのは、私がバーに関わるようになってから初めてのことだ。

店は三島駅から200mほど離れた場所にある。駅前と呼ぶにはギリギリの立地ではあるが、駅前の喧騒からは程よく外れている。
白壁に扉が一つ。その横には小さな看板があるだけのシンプルな外観は、如何にもオーセンティックバーである事を雄弁に語る。
ちなみに「ポルティエ」とは「門番」という意味らしく、来店するお客が初めて目にするのは正にこの扉である。
この扉はかなり古い物らしく、ドアノブが中央に付いた珍しいもの。どうやって開けるかはここでは敢えて書かないので来店してからのお楽しみである。

店内はカウンター席と一組のテーブル席の構成。カウンター席は一段高くなっており、段差内に仕込まれた灯りはまるでステージのようにカウンターを浮き上がらせる。
テーブル席も扉同様、アンティークなものを使用しているようで、テーブルを照らす照明と相まって落ち着いた店内に仕上がっている。
カウンターは一枚板の立派なものを設えており、これから先、色々な歴史がこのカウンターに刻まれていくのであろう。

バックバーは中央の飾り棚を中心にバーボン、リキュール、スコッチやジャパニーズ・ウイスキーなど、種類毎に配置されている。
天井まで伸びるカウンターは上段にかなりの余裕があり、真っ白な天井や壁なども含めて店内は清潔感と開放感に満ちている。

バー初心者はオーセンティックバーという部分も含め、何だか取っ付き難い印象を抱いてしまうかもしれないが、オーナーバーテンダーは30代と若く、畏まった印象はそこまで無いので安心して欲しい。
メニュー表の類は用意がないのだが、バーテンダーに好みを言えば、そこまで困ることも無い。
季節のフルーツを使用したカクテル等のご用意もあるので、お酒があまり強くない女性客でも十分楽しむ事が出来るであろう。

チャームはちょっとしたお料理やお菓子等が出てくる。こちらも日替りなので楽しみの一つだ。また、ナッツ等の用意もあるので、聞いてみると良いだろう。

三島駅周辺には再開発の話があり、三島駅前に大きなホテルが建設される計画になっている。多くの観光客や出張のお客様が市外、県外から三島に来られる機会は増えてくるであろう。
そんなお客様にこそ是非、寄って頂きたいバーなのである。