私がバー紀行を始めたのには色々な思いがある。
バーと言う素晴らしい場所に多くの方に興味を持ってもらう事。特にバーに行き慣れない方にバーを知ってもらう事。そんな思いから始めたのはコラムでも書いた覚えがある。
しかし、値段が高そうなイメージだったり、カクテルの種類が良く判らないからオーダー出来ないなど、色んなイメージを持っているのもバーの特徴であろうか。
実際、私も当初はそんなイメージを持っており、知り合いのやっている行き着けのショットバー以外にはあまり出入りをする事がなかった。
特に人と話すのがあまり得意じゃない人はカクテルひとつオーダーするのも大変だろう。
名前は多過ぎて覚えきれないし、メニュー表を置いてないバーも沢山ある。
私はこのサイトを通じてメニュー表の無い店ではバーテンダーに好みを伝えれば大丈夫！と何度か書いた事があるが、それ自体が得意じゃない人にはとても大変な作業なんだろうと感じる事もある。
他人が皆、私のようにガンガン聞く事を恐れない人達ばかりではないのも何となく理解出来るのだが…

前置きが長くなったがそんな心配を一切しなくて済むバーを見つけてしまった私。
そのバーに初めて足を踏み入れたのは今年の初めなのだが、私のバー紀行が考えるバー初心者を安心させる要素が沢山詰め込まれたのが今回紹介するBar Vevedoresである。

店内は長いハイカウンターとテーブルの構成。
ワイシャツに蝶ネクタイをしたオーナーバーテンダーが「はい、こんばんわ」と静かに迎えてくれる。
その姿はオーセンティックバーの雰囲気であり、初心者の方は「おっ！」と畏まってしまうかもしれないが話はそんなに単純ではない。
カウンターに腰をかけ、バックバーに目をやると多くの洋酒が所狭しと置かれているのだが特筆すべき点の最初はその全てに価格が書かれているという部分である。
特にオーセンティックバーではオーダーする前に値段が判らない場合が多く、いくら請求されるのか？ドキドキする場合があると思うのだが、この店には隠された部分が何も無い。全てに値段が書かれているのだ。
スタンダードな物から若干お高めの物まで幅広く揃っている。
また、日本酒や焼酎の類を扱っているのも通常のバーとは一線を画す部分であり、通常のバーではあまりオーダーする事が困難なサケティーニ（ジンと日本酒で作るマティーニ）を初めて飲む事が出来たのも実はこの店だったりする。

また、カクテルに関してもメニュー表があるのでオーダーと言う部分では安心出来るのだが話はそれだけで終わらない。
名前はもとより、度数、ショートカクテル・ロングカクテルの別、構成される酒やリキュールの名前。そしてちょっとしたカクテルの紹介文まで事細かに書かれているのだ。勿論、値段も書かれている。
このメニュー表は読んでいて飽きのくることのない、かなり秀逸なもの。
このメニュー表を見るだけでマスターの実直な人となりが伺える。

そして、このバーの特筆すべき点で外せないのがカラオケがあると言う点。
この店はオープンして10年以上が経過する老舗のバーであるが開店当初からカラオケが置いてあると聞く。
オーセンティックな印象のある店内でありながら、店の隅に設置されたカラオケの機械はその畏まったイメージをフランクな方向に誘ってくれる。
曜日や時間帯によって静かなバーと言う雰囲気とスナックにでも来たのか？と錯覚するほど盛り上がる店内、そのどちらもこの店の雰囲気であり、その雰囲気を作っているのは私達お客であるのは言うまでも無い。
そんな色々な側面を持っているのもこのバーの大きな特徴の一つである。

また、フードに関しても乾き物から小腹を満たすちょっとした料理まで揃う。
私も今回の掲載にあたり、何種類かのメニューを頂いたのだが、特にオススメしたいのはナン・カレー。
注ぎ口の付いた陶器のポットに入ったカレーソースは辛味、甘み、フルーティーな酸味が共存した本格的な物。別皿でナンが付いてくるのでディップして良し。カレーソースの合間の口休めに食べるのも良いだろう。
攻撃的な辛さではなく、ジワジワとボディーブローのように後から効いてくる辛さはハイボールや甘めのロングカクテルとの相性が良い逸品だ。

また、土日祝日は午後3時から営業しており、コーヒーや紅茶などの提供もしているので喫茶店代わりに使う事も出来る。

オーセンティックな雰囲気を持ちながらも手頃な値段と判り易いカクテルメニュー表は、バーと言う場所を経験してみたいと考える方には最適。
また、二次会などで大勢でカラオケを楽しむも良し。
午後のひとときにゆっくりとコーヒー、紅茶を楽しむ事も出来る。

そんな色々なシチュエーションに対応出来る、懐の広いバーなのである。